曽木颯太朗(14)

 僕が小学生だったころ、夜はほとんど 10 時半~ 11 時までに眠り、 12 時過ぎまで起きていることはあまりなかった。中学・高校と年を重ねるにつれて 12 時を過ぎても起きていることも珍しくなくなったが、小学生時代の生活が幸いしたのか「寝る子は育つ」という諺にあるように身長も伸び、大病を患うこともなかった。

 ところが近年、小学生は全体的に起床時間が遅くなっていないのに、夜寝るのが遅くなっているらしい。眠るのは気持ちの良いことであ るのに 、なぜ 最も 睡眠時間をとるべき小学生が夜更かしをしているのか、睡眠ははたしてどれくらい重要なのか不思議に思い、取材を始めた。

 まず、睡眠をとることの必要性や子どもの睡眠時間について 2007 年 1 月 28 日に富山大学大学院医学部准教授の関根道和先生にお話をうかがった。

 睡眠の重要性について関根先生は「寝ている間に分泌される成長ホルモンがタンパク質を合成して筋肉・骨格を作る。また脂肪が分解され、副交感神経が血圧を下げる」という。また、睡眠不足になると体が常に緊張状態にあると感じ、交感神経が働いてしまうという。交感神経は緊張したときに血圧や血糖を上げる働きがあるため肥満になりやすく、 40 ~ 50 代のときに生活習慣病を発症するリスクもあるそうだ。

 適正な睡眠時間については「個人差があるので絶対的な基準はない。自覚症状で判断すべきだ」としながらも、「朝きちんと起きて午前中しっかり活動できることが重要だ。集団でとらえた場合、子どもは 7.5 ~ 9 時間ぐらいがよい」とうかがった。

 夜更かしの原因としては夜遅くまでテレビを見る、あるいはインターネットやゲームをすること に加えて 受験勉強が挙げられている。ゲームやインターネットと違い、きちんとした目的を持った「勉強」であるため、親に注意されることも少ないといわれる。実際に小学生、とくに小学六年生がどのように生活を 送って いるのか調べるために 2006 年 9 月 27 日に栄光ゼミナール用賀校で取材を行った。

 小学六年生に取材してみると 12 時頃に寝ている子が何人もいた。塾自体は 9 時頃に終わるそうだが、そのあとも宿題や予習・復習などで遅くなってしまうという。受験勉強で忙しくなる夏休み以降に夜更かしするようになった子が多かったが、中には五年生のころから夜更かししている子もいた。体調はそれほど変化ないそうだが、全員昼間は眠くなるらしい。

 このような状態で眠くなるのは自明である。こうした状況を憂慮してか、近年食育とも絡んで「早寝・早起き・朝ご飯」なる運動が提唱されている。子どもたちの健康や精神的な疲労を考えるともっともなことである。しかし、いくら早寝といっても塾やその他の事情で早く寝るのは難しい。

 関根先生は充分な量の睡眠が無理でも 睡眠の質をよくすることは可能だ という。例えば「昼間運動する、日の光を浴びる、寝る前に 身体を温める 」といったことでも十分だそうだ。

 小学生の睡眠が少ないことは非常によくない。眠れば頭がすっきりして気持ちがよい。夜更かしは、健康を 損なうだけでなく 何一ついいことがない。取材で子どもたちは寝られるなら 10 時間以上寝たいと言っていた。テレビやインターネットで寝るのが遅いならすぐに寝るべきであり、受験などでどうしても遅くなるのはしょうがないとしても週に一回、一月に一回など定期的にぐっすりと寝られる日を作るなどして少しでも疲れがとれるようにするのがよいだろう。

富山大学の関根道和准教授

 2006 年 9 月 27 日に栄光ゼミナール用賀校で受験勉強をしている小学6年生に取材した。ある女の子の場合は「早く寝なさい、と母親に言われるが、遅くて 10 時までは勉強している」。それに対して男の子の場合「もっと勉強しなさい」と親に言われる、というのが多いようだ。生活に支障はないのか。「学校でたまに眠たくなる」「眠くはならなくても、ぼーっとするときがある」。また、某塾講師は「テスト前だと夜中3時まで勉強している子もいる。テスト前でなくても夜中1時まで起きている小学生もいる」と話す。実際に私の弟も塾が終わるのが 9 時半すぎで、その後に夕食を食べ、学校の宿題や塾の復習をしていると寝るのは 12 時をすぎることがほとんどだ。

 2007 年 1 月 28 日に富山大学の関根道和准教授に睡眠時間について取材した。 Benesse 教育研究開発センターが 2006 年4月に実施したアンケートによると、小学校高学年の寝る時間は 9 時間が 45 %( http://benesse.jp/blog/20060425/p3.html )。関根准教授は「個人差はあるものの、小中学生の睡眠時間は7時間~9時間ぐらいがよい」と話す。そして「“寝る子は育つ”というのは科学的にも正しい。筋肉や骨格を作る、成長に必要な成長ホルモンは寝始めてから3~4時間の間に脳下垂体から分泌される」と続けた。また、寝不足によって血糖値や血圧が上がったり、肥満体質になりやすくなるそうだ。関根准教授は「休みの日ぐらいはゆっくり寝た方が良い」と話す。私が小学生のころの休みの日は、朝早くから遊びに行ったりしていたため、それだけ最近の子どもたちの睡眠時間は少ないのだろう。

 必ずしも寝れば成長するというわけではないが、睡眠時間を充分にとることは成長する上で1つの重要なプロセスなのだ。

 しかし、受験に合格することも大切であり、それにはたくさんの勉強時間が必要だ。では、短時間で質のよい睡眠時間を得るにはどうすればいいのか。関根准教授は「交感神経を刺激するカフェインを含むものを、寝る3~4時間前にとらないこと」や「ほどよく運動をして体を疲れさせる」「入浴するなどして体温をあげる」「日光に当たって 24 時間のリズムを体で感じること」などの方法があると話した。

 栄光ゼミナール用賀校の教師は「昔はよく“三当五落”と言って3時間の睡眠時間をとれば合格するが5時間も寝たら受験に落ちる、といわれていた。でも本当はそんなことはなく、要領よく勉強して睡眠も最低限必要」と話していた。

 眠くたくて、ぼーっとした状態で長時間勉強するよりも、睡眠時間を最低限とり、勉強に集中できる状態で要領よく勉強することの方がずっと効率的ではないだろうか。ただ、そうは分かっていても睡眠時間が十分にとれないのが現実だろう。少しでも関根准教授のいう「質の良い睡眠」を心がければ、なにかが変わるのではないかと思う。