宮澤結(15)

 ここ最近、産婦人科の医師不足が深刻だ。それに伴い出産を扱う病院が減っていることも、ニュースの特集でよく報じられている。

 報道を見ているうちに、私たちの世代にも将来関わってくる出産について大きな不安を感じた。少子化に拍車をかけてしまうのではないだろうか。そしてどうしたら安心して出産でき、子どもを育てる環境を作り上げることが出来るのだろうか。

 驚いたことに、私達が取材したジュノヴェスタ・ハッタ・クリニックの八田理事長、都立府中病院産婦人科部長の桑江先生、都立大塚病院産婦人科の砂倉先生の 3 人の先生方はともに「常に医師不足を感じている」という。桑江先生は「ここ 2 年の間、産婦人科医は少し減った状態で下げどまりしている。しかしまだまだ現場の医師は少なく、家庭の仕事との両立も難しいうえ当直が多く、ほとんどの時間を病院で過ごしている」と過酷な勤務環境を話してくれた。

 今回取材を行ったところ、医師不足の原因には、苛酷な勤務環境、訴訟のリスクが高いこと、医師の高齢化の三点があげられた。

 過酷な勤務環境については、先にも書いたとおり当直が多いことが関連している。特に、出産は 24 時間いつ起こるか時間が特定できないので、土日に当直があることも少なくないという。

 次に、訴訟のリスクが高いのは報道で取り上げられることもあるので、知っている人も多いと思う。「今まではなかなかマスコミに取り上げられなかったが、命を扱うお産では事件はいつあってもおかしくない。マスコミに取り上げられ明るみになったことで、国民全体でどんな医療になりたいのか、どのように医療をしていくべきなのか議論してもらいたい」と桑江先生は言う。

 私達が東京都港区の病院前で行った妊婦さんへのインタビューでは、定期的に検診を受けたり、総合病院を選ぶようにしたなど、自身で対策をしている方が多かった。出産に関する様々な事件に関しても、「病院の責任だけでなく、システムにも問題がある」「病院のベッド数や医師数を考えるとなんともいえない」といった産婦人科医の不足を理解した意見が多いように感じられた。桑江先生は「妊婦さんには自分自身がしっかりするという気もちを持つこと、親や友達からお産の情報を得ること、そして子育ては自分ひとりで出来るものではないから誰かに手伝ってもらえるような人間関係の構築をしてもらいたい。また、医師と妊婦さんのお互いが理解仕合い、現場の医師は誰もが命を救おうと必死だということを知ってもらいたい」と語った。

 そして三つ目の医師の高齢化は、先に上げた過酷な勤務環境、訴訟の高いことから、若い人が入ってこないことが原因になっている。リスクも少なく、当直も少ない他科と比べると、産婦人科はやりがいだけで選ぶことになってしまうので、希望する人は少ないようだ。やはり若い医師が入ってこないと当然医師の高齢化は進むし、入ってこない分勤務環境もより一層苛酷になる。

 産婦人科医の医師不足は、どのように立て直していくかまだまだ道は長いという。

 砂倉先生は「産婦人科は他科とは違い『よかったね、おめでとう』『またいらっしゃい』といえるし、命の誕生と言う喜びに立ち会える唯一の現場だから、とてもやりがいを感じられる。出産して元気で喜んで帰っていくのが嬉しい」と言っていた。

東京都立大塚病院産婦人科の砂倉真央医師 に取材

 命の誕生に関わる産婦人科医の仕事。だからこそリスクが高く大変な現場だと思うが、今回話を伺った先生方は仕事にやりがいを持っているのをすごく感じた。産婦人科医がもう少し働きやすい環境や制度をつくり、少しでも産婦人科医を希望する人が増えることを願っている。