知らないうちに植え付けられているジェンダーバイアス

記者:Haruka Inami (10)

子ども向けの漫画や雑誌には、ジェンダーバイアス*が多いと感じることがあります。例えば、男の主人公が「女なんぞに負けてられるか」とか、「女なんだからそんなことできないでしょ」といったセリフです。吉村和真先生(京都精華大学マンガ学部教授)によれば、漫画には確かにジェンダーバイアスが存在し、また、子供時代に主に読んでいたのが少年漫画か少女漫画かで、物事の見方が異なってくる可能性もあるそうです。

*ジェンダーバイアス・・・人や社会が無意識のうちに性差や男女の役割、そして性的マイノリティなどの人々について固定的な思い込みや偏見を持つこと。(IDEAS FOR GOODより引用)

女友達はしずかちゃんだけ?

記者:日本の漫画のキャラクターの性別による描き方やストーリーにおける役割には、どんな偏りがありますか?

吉村先生:
とても鋭い質問ですね。まずは、「ジャンル」について考えてみましょうか。日本には少年漫画と少女漫画というジャンルがあります。この二つでは漫画の描き方がとても違います。だから、小さい頃から少年漫画ばかり読んでいると、そこで表現されていることが常識になっていきます。逆に少女漫画で描かれていることに慣れると、その絵柄や表現が普通であると感じるようになります。

<「ドラえもん」の一コマ>

これは、記者さんが探してくれたドラえもんの場面ですが、ジャイアンが、ままごとみたいなことをやっていると、「男のくせに」という話が出てきます。この「男性はこうあるべき」というセリフは、今の世の中、とても古い表現ですね。でも、これを読む子どもは気が付かないうちに、こういう場面でこんな発言をすることが常識だと思ってしまう恐れがあります。

記者:ドラえもんの作品を全体でみるとどうですか?

吉村先生:
中国のことわざに「紅一点」という言い方がありますがこれは、「たくさんの男性の中にたった一人の女性」という状況を意味します。一人の女性に好意を寄せる男性たちのライバル関係という状況は、日本の人気漫画でよく見られる要素で、日本で一番売れた漫画「花より男子」も例の一つです。

「ドラえもん」に登場する女性キャラクターは、しずかちゃんやジャイ子ちゃんくらいで、それ以外は、誰かのお母さんという役割です。一方、男の人はたくさん出てきます。このような性別に関連する役割分担や人物配置は、日本の漫画やアニメの特徴の一部と言えます。のび太の女の子の友達がしずかちゃんしか出てこないのはなぜだろう?、と考えたことはありますか?

記者:あります。それに私が読む漫画では、女の子がたくさん登場しますし、ドラえもんの漫画に出てくるようなライバル関係はありません。

吉村先生:
ドラえもんは登場する女の子の数が少ない、と指摘をする研究者もいます。

いつの間にか影響を受けている

吉村先生:
「作品そのもの」について話しましょう。少年漫画を例に挙げます。少年漫画には専門用語で「間白(コマとコマの間の白い部分)」というものがあるのですが、それが画面のほとんどを占めます。

この白い部分があることで、細かなコマに目を移すときにテンポよく読んでいけますね。 スピード感にちょうど合うので、バトルものとかスポーツもの、あるいはギャグ漫画によく使われます。

<吉村先生の資料を元に著作権フリー素材で作成>

一方、少女漫画の方は、線で囲ってはあるけれど、間白は無い場合が多い。目がイラストにとどまってしまったり、お話と関係ないところで女の子の後ろに花が咲いたり、装飾をつけたり、1つのイラストとしてじっと読ませるという工夫がなされています。

また少年漫画は作品の中の世界を見せますが、少女漫画は読んでいる人に視線を向けています。読者に向かって、「私、かわいそうでしょ?可愛いでしょ?」と言ってるんです。そうやって読者と目を合わせることで、その登場人物の心の中に入っていく効果があります。目が大きすぎると思いませんか?

記者:はい、とても大きいです。

吉村先生:
じつは、目の大きさを含め出版社が決めている場合が多いのです。人の顔の大きさを決めたら、「目の大きさはこれぐらいにしてください」というふうに漫画家さんにオーダーします。その方が売れるからです。

ここで関わってくるのがジェンダーバイアスの話です。可愛いとか、かわいそうとか、出版社が求めるイメージどおりに、大きな目でそれを訴えかけるために描かれる。 大きな目の登場人物を見るだけで、主人公なのか、可哀想な運命にあるのか、誰と仲良くなるのかをぱっと見た瞬間わかるようにしてあります。また、少年漫画と少女漫画の違いで大きいのはオノマトペですね。

記者:オノマトペとはなんですか?

吉村和真先生

吉村先生:
オノマトペというのは、擬音語とか擬態語のことです。この使われ方の違いも子ども達に与える影響があると思います。

少年漫画では、「バーン」とか「ズバババ!ガシンッ」など使われますね。1個1個の動作にオノマトペをつけて、臨場感を出しています。一方、少女漫画では、ほとんどオノマトペは出てこないんです。 その代わりに「ふわっ」とか書いてあります。

記者:漫画は子どもの成長に影響を与えてますか。

吉村先生:
小さい頃から少年漫画しか読んでこなかった人と、少女漫画ばかり読んできた人とでは、 ものの見え方がすごく影響されることになります。

少女漫画の少女は、困難な家庭環境を抱えていたり、主人公はお金がなかったり、容姿コンプレックスがあったりが定番です。なので、漫画を読むことで女の子らしさを学ぶ子どももいるでしょう。いつの間にか、女の子とはそういうものだと影響されてしまう。

つまり、小さい頃からいつの間にか漫画に影響を受けているのです。少年らしさ、少女らしさという、ジェンダーに関わる大きな影響を受けやすいという意味では、日本の子たちは世界的に見ても、すごく面白いけれど、怖いポジションにいるのかもしれない。

漫画とどうつきあっていく?

記者:最近の漫画は、ジェンダー多様性やまたその他の点から何か変化はありますか?

吉村先生:
20年くらい前から男性同士の恋愛のお話も出てきました。女の子同士の恋愛ジャンルもあります。また、性的マイノリティーなど少数派の人にとっての悩み事について考える漫画もたくさん出ています。身近な 題材を漫画にするこれらをエッセイ漫画と呼びますが、作り話ではなく、その人の考え方や経験が描かれています。その中の一つに「怪獣になったゲイ」という漫画があります。低学年には読むのが早いかもしれませんが、いつか読んでみたら、なるほどと思うかもしれません。

記者:保護者や子どもたちは、漫画とどう付き合っていくのがいいですか?

吉村先生:
昔は「漫画ばかり読んでたら、成績悪くなるぞ」とよく言われましたが、最近は漫画を読んで育った保護者が増えているので、一緒に読んで話をして、ジェンダー問題の認識を変えていく機会を持つのがいいと思います。

保護者としては「今の漫画の流行りは何か?」とか、半分勉強、半分子どもの様子を知るために一緒に楽しく漫画を読むと良いでしょう。一方子どもたちは、今の流行りが 一番新しいと思わずに、お父さんお母さんたちの時代の漫画にもジェンダーの問題をちゃんと書いた漫画があることを知ってみるのも面白いですよ。

先生のご紹介:
「これも学習マンガだ!」ー漫画選びの参考に(日本財団)https://gakushumanga.jp/
夫は実は女性でした』高学年向けのエッセイ漫画(津島つしま作:講談社、2020年)


取材後記

吉村先生のお話をうかがい、本当に勉強になりました。
漫画を読んでいると知らないうちに影響を受けているんだなと思いました。
皆さんも漫画を読むときにページやキャラクターのセリフをよく見てみてください。前までは気づかなかったものにも気づくかもしれません。吉村先生、取材のお時間をいただき、ありがとうございました。

取材の後、こんなカードを作ってみました。ジェンダーについて家族で話あってみました。