「IKUNO・多文化ふらっと」が創る多文化共生の在り方とは

記者:邊愛 Pyong Sarang (16)

大阪にある、世界に1番近い街、生野区を知っていますか。大阪市生野区は区民12万6千人のうち5人に1人以上が外国籍住民のまちで、100年以上に及ぶ歴史とともに生きてきた在日コリアンの人々をはじめ、約60か国の外国ルーツの人々が暮らす、多国籍・多文化の街です。そんな生野区に「誰もが暮らしやすい全国NO.1のグローバルタウンをつくる」というビジョンを掲げて設立された特定非営利活動法人 IKUNO・多文化ふらっと*。どのように地域の人々と関わりあっているのか、子ども食堂を担当している橋本真菜さんに、今回お話を伺いました。

*特定非営利活動法人IKUNO・多文化ふらっと: 「誰一人取り残さない」ー多文化共生のまちづくりをビジョンとしている。2019年に任意団体として設立、2022年には現在の「いくのパーク」に拠点を移し、大阪生野区において20年間の長期にわたり多文化共生のまちづくりに取り組んでいる。「子どもみらい事業」「まちづくり事業」「いくのパーク事業」「調査・提言事業」が現在の主な4つの事業。

名前に込めた3つの意味

記者: 「IKUNO・多文化ふらっと」という名前の由来や思いについて教えてください。

橋本さん: IKUNO・多文化ふらっとの「ふらっと」には、3つの思いが込められています。まず、”flat(平らである)”から意味する「平等」、「”ふらっと”立ち寄れる場所」、そして音楽記号の”フラット”が意味する「半音下げる=一歩下がって、目線を下げて人々と接する」というの3つです。

記者: 2019年6月に団体を設立されましたが、設立のきっかけはなんですか。

橋本さん:生野区は12校あった小学校が5校に減るなど、少子高齢化が深刻な問題となっています。また大阪市内の公立小中学校に通う日本語指導が必要な子どもたちの数は1200人以上にのぼり、日本語指導が必要な外国籍の高校生の中退率は、日本の高校生の5倍以上になります。教育、福祉、医療など生活課題の悩みを抱え、どこにも相談できず困窮する外国ルーツのひとり親家庭が生野区には多く存在します。

このように生野区にはいくつもの深刻な社会問題が大きな壁として立ちはだかっています。今後ますます問題が深刻化し、経済的格差が広がることによって、外国ルーツの子どもたちや高齢者などの社会的に弱い立場の人々の生活を脅かすことは容易に想像できます。このような背景から団体設立に至り、2021年3月に閉校となった大阪市立御幸森小学校の跡地を活用し、「いくのコーライブズパーク」をオープンすることになりました。

記者: 活動する中で、在日外国人に対する偏見や差別を感じたことはありますか。

橋本さん:個人的に在日外国人、特に在日コリアンに対する差別偏見を感じた出来事として、2013年の鶴橋での大規模ヘイトスピーチ*がありました。また、最近では京都のウトロ放火事件**がありました。今の活動中に、あからさまな差別を感じることはありませんが、地域で外国人と一緒に生活する上での「とまどい」を持っている人がいることは感じます。IKUNO・多文化ふらっとの活動を通して、その「とまどい」を「良い出会い」にしていけるようにしたいです。

鶴橋ヘイトスピーチ*:鶴橋駅前で起きた在日コリアンに対する大規模なヘイトスピーチ活動。
ウトロ放火事件**:2021年、在日コリアンが暮らす地区で起きた放火事件。住宅や空き家など7棟のほか、ウトロ平和記念館で展示予定だった資料50点が焼失した。

小学校跡地を利用した「いくのパーク」

母語を尊重する

記者:外国のルーツを持つ子どもに対して「日本語学習サポートDOーMO(どーも)」を提供していますが、支援する際に特に気をつけていることはなんですか。

橋本さん: うちの学習担当者によると、丁寧な聞き取りを通して、それぞれに合った学習方法、支援の方法を探っていくことを基本としているそうです。ただ「日本語ができない子」として接するのではなく、「2つの言語を持っている子」として接するということを1番大切にしています。

また、一概に外国ルーツを持つ子といっても色々あって、日本で過ごした期間が長い子、日本に来たばかりの子など、それぞれです。なのでその子を気持ちの面でもサポートしてあげられるよう心がけています。

記者: 「日本語力を上げるためにも、母語を尊重することが大切です」と他の記事で読みました。母語の重要性について考えていることがあれば教えてください。

橋本さん: 日本語力を上げるために必要になるのが母語であると思っています。そのためにその子が持つ言語を認めることが大切になってくると感じています。

「二言語相互依存の法則*」という考えがあります。ただ日本語力を上げる取り組みをするのではなく、子ども達の母語の言語能力を向上させることも考慮しながら日本語を教えていく考えです。決して母語を疎かにせず、日本語、母語のどちらも尊重して教えていく。母語をまず何よりも大事に扱うことが、日本語力の向上にも繋がると思っています。

*二言語相互依存の法則: 応用心理学のジム・カミンズ博士が提唱する、子どもの第二言語における能力は、既に第一言語で獲得した言語能力に依存しているという考え方。 第一言語が発達しているほど、第二言語も発達しやすくなり、第一言語が低い発達段階にあるとバイリンガリズムの達成は難しくなるとされている。

No.1のグローバルタウン

記者:生野区にはコリアタウンや朝鮮学校があり、外国ルーツの子ども達の中でも韓国・朝鮮の色が濃いように思います。IKUNO・多文化ふらっとに集まる子ども達、そうですか。特に多い国はどこですか。

橋本さん:文化や歴史に根付いた街なのでコリアをルーツに持つ子どもはやはり多いと感じます。その他にも中国、ベトナム、ネパール、タイ、フィリピン、スリランカ+日本の合計8カ国の子どもがこの場所に来ています。正確に数を数えているわけではないのですが、全体的に中国の子ども達が多く、最近ではネパールの子ども達が増えていると感じます。

記者:子ども達が、日本で生きていく上で大切にしてほしいことはありますか。

橋本さん:「あなたのままで良い」ということをまず一番に伝えたいです。外国にルーツを持つ子ども達が生きやすい社会をつくるためには、私たちは子どもやその当事者たちにアプローチを行うのではなく、社会に変化を求めるべきだと考えています。

今の日本は個人モデルの考え方が主流で、社会の形に合うように変化を求められることが多い。でもそんな社会の中でも、子ども達が自分の個性やアイデンティティに堂々と胸を張って生きることのできる人であってほしいと願っています。そのためにも社会モデル*の価値観を発信していきたいと思いますし、ユニバーサルデザインを採り入れた社会が実現してほしいと思います。

*個人モデル: 障がい者が困難に直面するのは「その人に障がいがあるから」であり、克服するのはその人(と家族)の責任だとする考え方
**社会モデル: 社会こそが「障害(障壁)」をつくっており、それを取り除くのは社会の責務だという考え方

記者: 最後に、今後の展望と、理想とする生野区の在り方について教えてください

橋本さん: IKUNO・多文化ふらっとが、社会的弱者を守る防波堤になればいいなと思っています。高齢者や子ども達、日本とは違う文化を持った人達など、多種多様な人たちがホッとできる、居場所となれるような場所にしていきたいです。そのために社会の価値観とは違う価値観を、社会に発信していきたいと思います。

また、私たちは「大阪市生野区において多文化共生のまちづくり拠点の構築を通じて、誰もが暮らしやすい全国NO.1のグローバルタウンをつくる」ということを目標に活動しています。生野区に住む人達がこれからも暮らし続けたい、生野区外に住む人達が生野区で暮らしたい!と思ってもらえるような街にしたいです。

<大阪府大阪市生野区>
令和4年12月時点で、大阪市の総人口2,741,587人のうち152,560人が外国籍を有しており、外国人比率は全市民のうちのおよそ5.6%を占めています。その中でも生野区は大阪24行政区の中で最も外国人人口が多く、生野区総人口の125,938人中、外国籍を持つ人は27,480人いるとされ、その比率は21.82%に及びます。また5人に1人が外国籍を有しており、その人口は年々増加しています。(参考)大阪市外国人住民数等統計2023年4月14日


取材後記: 誰かにインタビューをして記事を書くのが初めてで緊張した部分もあったのですが、取材を受けてくださった橋本さんや同行スタッフに助けられながら無事に終えることが出来ました。

記者雑感: みなさんは日本語が好きですか。私は日本語が大好きで、日本の詩や俳句、短歌をよく読みます。日本語の中でも、私は「侘び寂び」という言葉が特に好きです。微妙な感情を繊細に表せる言葉が沢山あって、言葉に美しさが宿る言語は日本語だけだと思います。どんな気持ちにも当てはまる言葉があって、それを表現できる術を持っていることはとても安心できることだなと感じます。

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